
これから人気沸騰?
別格の天才子役だった女優が、15年ぶりにプライム帯(午後7~同11時)の連続ドラマで主演している。TBS「未来のムスコ~恋人いない歴10年の私に息子が降ってきた!」(火曜午後10時)の(32)である。読売新聞テレビ担当記者たちはこの作品を冬ドラマの序盤の1位に選んだ。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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政治部のイメージが強い読売新聞だが、テレビ記事も古くから評価が高い。NHKの首脳人事や不都合な事実を次々とスッパ抜く。民放も容赦なく斬り捨てる。ドラマ評もテレビ局の意向に流されない。
その読売が1位としたのが、TBS「未来のムスコ」。第3回(1月27日放送)までの視聴率はベスト5にすら入っていないが、ドラマフリークの多くも異論がないのではないか。
筆者の意見も同じだ。作品の認知度が高まれば、視聴率も自然と上昇するはず。全体的に明るく、クスリとさせてくれる作品だが、気が付くと目頭が熱くなっている。感動と気づきを与えてくれる。後味も良い。
主演のの役柄は汐川未来、28歳。女優を目指し、富山県から上京して10年になる。「アルバトロス」という小劇団に所属しているが、メジャーな仕事はない。ずっと下積みが続いている。
小劇団では生活費が得られないから、パートで仕事をしている。パソコン操作の電話サポートだ。非正規なので収入は少ない。ほかにも青果店などでバイトをしているものの、生活は苦しい。
未来は元気で明るい。口癖は「だんない(富山弁で大丈夫)」。しかし、自分の将来に強い不安を覚え始めた。背景には年齢がある。「そろそろ限界かなぁ」。夢をあきらめかけていた。
その矢先、目の前に5歳の男の子が突然現れた。なぜか自分の部屋にいた。名前は汐川颯太(天野優)。未来を見るなり「ママー!」と、抱きついてきた。未来の息子であり、10年後の2036年から来たという。
颯太は未来と幸せそうに抱き合う写真を持っていた。令和17年(2035年)発行の500円硬貨も手にしていた。未来からもらった小遣いなのか。
それでも未来は颯太の話を信じない。2036年から来たことも息子であることも。普通、そうだろう。未来は颯太を交番に置いてきてしまう。
置き去りにされた颯太は未来に向かってニコニコと笑いながら手を振った。母親が自分を捨てるだなんて、思ってもみないからだ。どの子供だって、そうに違いない。
ムスコと信じる
未来が劇団の稽古を終え、自宅アパートに帰ると、なぜか颯太が待っていた。2036年から持ってきたスマートウォッチが道案内をしてくれたという。颯太はやっぱりニコニコしている。未来と一緒にいるのがうれしくてたまらない。これも子供はみんなそうだろう。
やがて未来は颯太の言葉を信じるようになっていく。未来が落ち込んでいたとき、颯太が「だんない」と励ましてくれたからだ。颯太は自分の口癖を受け継いでいる。
未来が将来に絶望し、電話サポートの仕事で正社員になろうとすると、バッグの中から「ママへ」と書かれた颯太の紙工作が出て来た。颯太からのプレゼントだった。未来は不思議と力が湧いてきた。女優を続けることを決める。
なぜ、颯太が2036年からやって来たのかというと、「マー君」と呼んでいたパパが家を出て行ったから。理由は未来とのケンカ。颯太は2人を仲直りさせたくてタイムスリップした。
未来はマー君が誰なのかを知らない。颯太を産むのは5年後だからである。なぜか颯太も顔をよく覚えていなかった。
マー君の候補者は、まず劇団の座長兼演出家の吉沢将生(塩野瑛久)。未来の恋人だったが、ほかの女性とキスをしていたため、別れた。もう10年も前のことだ。それでも吉沢は颯太を自分の息子と思い込む。未来と仲直りをすれば、父親になる可能性はある。
劇団の後輩・矢野真(兵頭功海)も候補。未来に好意を抱いている。保育士の松岡優太(小瀧望)もそう。未来の中学時代の同級生で、東京で再会した。松岡はかつて未来が好きだった。
変わらぬ志田のうまさ
出演陣にはうまい人たちが揃い、適材適所に配されている。特に志田。子役としては紛れもなく天才だったが、今も抜きん出た存在だ。
動作やセリフに不自然さが欠片もない。また、感情を小さな仕草でも出せてしまう。たとえば、やや気落ちしているときは、肩をほんの少しだけすぼめる。
日本テレビ「ホットスポット」(2025年)のスナック従業員役など脇役のときには、あまり目立なくしている。だが、主役になると、画面から抜け出てくるような存在感を見せる。体の動きをやや大きくするなど演技を変えているからだ。
同じ世代のトップランナーの1人・伊藤沙莉(31)は、10年以上も志田を意識していたという。それもうなずける。女優同士でも気になる演技だろう。2人はお互いに10代前半の子役だったころ、日テレの名作「女王の教室」(2005年)で共演した。志田は当時からスターだった。
颯太を演じている天野優(5)はやたらと評判がいい。志田と同じで、動きとセリフが演技と思えないからだ。子供らしい動きをする。
お腹が空くと、うずくまる。眠くなると、いきなり寝てしまう。大好きなオムライスを喜色満面で食べる。
ドラマ出演は2作目。「日曜劇場 19番目のカルテ」(2025年)にも出ていた。もっとも、患者役の子供で、役名もなかったから、この作品が本格的なデビュー作である。
視聴者が共感しそうなポイントが多い作品でもある。まず子供にとって両親のケンカは悲しい。ときには懸命に仲直りさせようとする。また、最近のドラマは大半が無視してしまうが、20代にも年齢による焦りはある。それを丁寧に描いている。
子育てに悪戦苦闘した日々を思い出す人もいるだろう。実はそれが楽しいものだったことにもあらためて気付かせてくれる。
タイムスリップには現実味がないが、作品全体にリアリティを出すことには成功している。未来の子育てや貧乏暮らし、劇団活動の描写が真に迫っているからだ。リアリティのない作品は拘りが足りない。
未来が颯太と親子になっていく物語である。フジテレビの名作「マルモのおきて」(2011年)を彷彿させる。あの作品は冴えないサラリーマン(阿部サダヲ)が、親友の双子の子供(芦田愛菜、鈴木福)と家族になっていく物語だった。家族とは何かを考えさせた。
2つの作品に共通点を感じるのは当然である。「未来のムスコ」の原作漫画のストーリーは「マルモのおきて」の脚本家・阿相クミコ氏が書いている。悪党が登場せず、温かい雰囲気が漂っているところも一緒だ。
「マルモのおきて」は口コミで徐々に高い評価が広まった。「未来のムスコ」も同じ形でヒット作になっていくと見ている。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部